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取引コストの影響としては、このほかに投資家が自家製配当を作り出す際の株式の売買コストや取引制限について考える必要があるo投資家が株式を売買して自家製配当をつくるためには取引コストがかかるし、現実の資本市場では株式の最低取引単位が存在するので、そもそも自家製配当を作り出すのが困難で、ある。
したがって、(投資家が自家製配当を作り出すことができるので)配当政策は株価に影響を与えないということは現実には成立しない。
取引費用と株式の売買制限があるために配当と内部留保のどちらが株主にとって有利になるかについては、一概にはいえないと思われる。
次に税制の影響を考えてみよう。
もし配当収入のほうがキャピタルゲインよりも税率が高ければ内部留保が望ましく、逆の場合は配当が望ましい。
表91に示すように、日本では、これまで個人投資家にとっては概して配当課税よりもキャピタルゲイン課税のほうが税率が低かったが、最近の改正によって両方の税率は同じになった。
アメリカではキャピタルゲインのほうが配当よりも税率が低い。
ただし、キャピタルゲインは実現時まで課税が延期できるため、両国とも実効税率ではキャピタルゲイン課税のほうが低い。
このため、個人投資家は税制面からは配当よりも内部留保を好むといえる。
しかし、法人投資家については、日米ともに配当課税のほうがキャピタルゲイン課税よりも税率が低くなるので、個人投資家とは逆に配当を好むと考えられる。
また、年金基金など非課税の機関投資家は、配当とキャピタルゲインのどちらか一方を好むということはないといえよう。
このように税制面からは、個人投資家と機関投資家を合わせて市場全体でみれば、配当とキャピタルゲインのどちらかが一方的に好まれるという結論を出すことはできないと思われる。
2、3倒産の可能性がある場合の企業価値。
前節の議論では、投資家は配当収入(インカムゲイン)とキャピタルゲインを合計したトータルリターンに注目し、どちらか一方を好むことはないと考えてきた。
しかし、現実の市場では、様々な理由から、配当とキャピタルゲインのどちらかを好む投資家が存在する。
例えば、前述のように、個人投資家は配当課税よりもキャピタルゲイン課税のほうが税率が低いので、一般的には配当よりもキャピタルゲインを好む。
また、年配の個人投資家は現在のインカムを望み、年齢の低い個人投資家は現在のインカムよりも将来のインカムをキャピタルゲインという形で受け取ることを望むと考えられる。
これに対し、法人投資家は配当課税のほうが税率が低いので、一般的にはキャピタルゲインよりも配当を望むといえよう。
また、非課税の機関投資家にとっては、税金だけの観点からは配当とキャピタルゲインは同等のはずである。
しかし、運用成績の評価がインカムゲインをもとに行われる制度があったり、配当額や配当性向が投資対象の適格要件となっている場合には、低配当の株式が敬遠されることもありうる。
このように、税制の差別的扱い、発行・売買コスト、投資家のタイプ、限界税率、年齢などの違いを考慮すると、配当とキャピタルゲインに対する投資家の態度は個々の投資家によって違ってくる。
したがって、市場全体でみて、どちらかが一方的に好まれるということではなく、それぞれの投資家がそれぞれ自己の特性に合った配当政策をおこなう企業の株式を選択していると考えることができる。
これは企業側からみれば、自社の配当政策を好む特定の投資家層を株主(顧客)として選択していることになる。
このような現象を配当政策の顧客効果(CienteeEffect)という。
配当政策にこうした顧客効果があることは、企業がいったん何らかの事情で採用した配当政策をむやみに変更すべきではないことを示唆している。
なぜなら、企業が急に配当政策を変更すれば、従来の配当政策を支持してきた株主は、自分の好む配当政策をおこなう他の企業の株式に乗り換える必要が生じるが、それにはコストがかかる上、予期せぬ株価の変動を引き起こす原因になりうるからである。
2、4固定比率。
配当政策の決定にあたって考慮すべき点のつとして、配当の情報効果があげられる。
完全資本市場では、どの経済主体も企業の業績見通しなどの情報をコス無配政策をとる企業完全市場のもとで・は、投資政策や資本構成を一定とすれば、配当政策は企業価値や株価に影響を与えないが、現実の資本市場では、資金調達には様々なコストがかかるので、企業は設備投資に必要な金額はなるべく内部留保でまかない、それで余った分を配当するべきだという「残余配当政策」が成り立つ。
この考え方に従えば、純投資額が常に税引利益を上回っている企業は、配当をおこなわずに利益をすべて内部留保すべきだという結論になる。
実際、アメリカには、投資機会が多いために利益を全額内部留保する政策をとる企業がNasdaq上場企業を中心に多く存在する。
これらの企業が無配政策をとるのは、利益を事業に再投資すれば、株主が株式投資に要求する以上の収益率をあげることができるため(すなわち、正昧現在価値がプラスの投資機会があるため)、配当を支払うことなく利益を全額内部留保したほうが、より多くのキャピタルゲインをもたらし、株主により多く報いることができると考えるためである。
本章で述べたように、現実の市場の制度的要因を考慮すると、配当政策が株価に影響を及ぼすかどうかについて明快な判断を下すのは難しい。
その意昧では、配当政策はいわば二義的であって、企業がまず重視すべきことは投資の収益性であるといえる。
この投資収益率を重視する考え方は、配当割引モデルの考え方とも矛盾しない。
無配政策をとっている企業は、この考え方を徹底して実践しているといえる。
日本では、株式の上場の際に、決められた最低限度以上の配当額を要求されるため、旺盛な投資機会を理由に無配政策をとることはまず不可能であった。
しかし、最近では」ASDAQやマザース舎などの新興市場では、配当額は上場基準に含まれていないので、無配企業の上場も可能になっている。
ただし、無配企業の場合、高い投下資本利益率や利益成長率を継続的に実現することを要求されるが、近年のITブームの際に上場した無配企業の中には、このような投資家からの要求に応えられていない企業も見受けられる。
ところで、投資機会が旺盛であるために無配政策をとる企業を評価する場合に、配当割引モデルを直接適用できるであろうか。
理屈の上からは、無配企業もやがて投資機会が滅り、成長カが落ちれば配当を支払い始めるため、企業の将来の配当支払能力を織り込んでこれらの企業の株価が形成されていると考えることができる。
しかし、無配企業が配当を支払い検める時期やその後の配当の成長パターンを予測するのは実際にはかなり函難である。
したがって、無配政策をとる企業の株式の評価には配当割引モデル以外の方法を用いることが必要になろう。
例えI!無配企業の株価の評価には、開業他社と株価収益率を比較する方法が考えられるし、期待収益率の推計には、配当劉引モデルにかえて資本資産評価モデルを用いることが考えられる。
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